シラン系表面含浸材(撥水型)とけい酸塩系表面含浸材(緻密化型)の比較
加圧透水性試験・ひび割れ透水性試験・透水量試験・凍結融解試験・付着強さ試験
表面含浸材の使い分け
表面含浸材は、適用箇所の水掛かりの有無、ひび割れ発生の有無、他工法との併用の有無などに応じて使い分けることで、コンクリート構造物の長寿命化にさらに貢献します
表面含浸工法は、シラン系表面含浸工法(撥水型)とけい酸塩系表面含浸工法(緻密化型)に分類されます。コンクリート表層部に含浸して保護層を形成する点で両工法は共通していますが、コンクリート表面への撥水性付与、コンクリート表層部の緻密化、ひび割れの閉塞性の有無という違いがあります。
【シラン系表面含浸材】は【けい酸塩系表面含浸材】より劣化因子の侵入抑制効果は高い傾向にありますが、水掛かり・ひび割れ部への適用性や下地改質工としての適用性が低いという特徴があります。
表面含浸材の概要・特徴
シラン系表面含浸材
浸透性吸水防止材とも称され、コンクリート表層部に含浸させることにより吸水防止層を形成し、外部からの水や塩化物イオンの侵入を抑制する
出典:土木学会.表面保護工法設計施工指針(案)工種別マニュアル編.2005年.146頁.解説 表2.1.2本マニュアルで対象とする表面含浸材の機能より
シラン系表面含浸工法の特徴は、コンクリート表面から含浸させる表面含浸材により、表面含浸材塗布表面へ疎水性が付与されることにある。これによりコンクリート表面が撥水性を持ち、表面からの水の浸入を抑制する。表面含浸材によりコンクリートの細孔を塞ぐことが無いため、施工後のコンクリート表層は、水は通らないが水蒸気は通過する。
なお、シラン系の表面含浸材は、例えるならばコンクリート表層に不透水の膜が形成される様な状態であり、表面含浸材塗布面以外からコンクリート内部への水分供給が想定される場合等では、対象構造物の含水量を増大させる恐れがある。アルカリシリカ反応を発生させる反応性骨材が使用されている場合や凍害を受ける環境下では、これらの劣化を助長させる場合もあることから、農業用コンクリート開水路の接水部における適用にあたっては専門技術者へ照会することが望ましい。
出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.265頁.9(5)参考工法(シラン系)より
けい酸塩系表面含浸材
けい酸塩系表面含浸工法において使用する、けい酸アルカリ金属塩を主成分とする液状材料。コンクリートに含浸し、水酸化カルシウムと反応してC-S-Hゲルを生成し、コンクリート表層部を緻密化する等して改質させる機能を有する材料。
出典:土木学会.けい酸塩系表面含浸工法の設計施工指針(案).2012年.6頁.1.3用語の定義より
けい酸塩系表面含浸工法は、コンクリート表層部の組織を改質・緻密化し、劣化因子の侵入を抑制することでコンクリートの耐久性を回復又は向上させることを目的とし、表面含浸材をコンクリート表面から含浸させる工法である。
また、けい酸塩系表面含浸工法の大きな特徴としては、①施工が比較的容易であること、②繰返し施工が可能であること,③劣化を促進する等の副作用が小さいことが挙げられる。
このように、けい酸塩系表面含浸工法は、工法の効果は表面被覆工法等の他工法に較べて顕著な効果が得られるとはいえないが,施工がし易く使い易い工法といえる。このような特徴から、他の工法と組み合わせた補助工法として、あるいは対策段階としては潜伏期に適した工法といえる。
出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.235頁.9(1)工法の概要・特徴より
水掛かりへの適用性
水の作用がコンクリート構造物の劣化の発生や進行を助長する場合があります
水掛かりの予防保全には【けい酸塩系表面含浸材】が最適です
農林水産省「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】」や北海道開発局「道路設計要領」に表面含浸材の水掛かりに関する案内が出ています。
【けい酸塩系表面含浸材】については、土木学会「けい酸塩系表面含浸材の試験方法(案)」JSCE-K 572の試験項目の一つとして、水圧環境下での試験である加圧透水性試験が規定されています。
農林水産省「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】」より
開水路 = 水と接するコンクリート構造物
農林水産省の開水路補修マニュアルは、けい酸塩系表面含浸工法を対象としています。
【シラン系表面含浸材】が適用不可となる条件として「接水部」が規定されています。
北海道開発局「道路設計要領」より
3.シラン系表面含浸材
3.1 適用範囲
【解説】
1)について
表面被覆および表面改質技術研究小委員会報告書によると、シラン系に期待される効果は、表1のように整理されている[3]。これによると、新設では効果が概ね期待される見解が示されている。既設は劣化が著しい構造物への適用は困難で、劣化の程度によっては効果が期待される場合もあるようだが、データは未だ少ない。このことから、当面は新設構造物および打換えられた直後の部材への適用を標準とした。
2)について
コンクリートの空隙は充填されないことから、水が強制的に圧入されるような環境下では、期待する効果が得られない場合がある。このため、適用はできるだけ避ける。
出典:北海道開発局.道路設計要領 第3集 橋梁 第2編 コンクリート橋 参考資料B.道路橋での表面含浸材の適用にあたっての留意事項.2023年.3-コ B-5.3.シラン系表面含浸材より
5.3橋座面
【解説】
橋座面は水分が滞留しやすい部位であるため、シラン系の適用は基本的には厳しい。けい酸塩系は改質の速度は緩慢ではあるが、水分の滞留は組織のち密化にプラスの効果をもたらす。橋座面は人目につきにくい部位であるので美観が問題視されるケースは少ない場合が多い。しかしながら、凍害の進行(発生ではない)による断面欠損は抑制すべきである。このことから、けい酸塩系が望ましいと言える。
出典:北海道開発局.道路設計要領 第3集 橋梁 第2編 コンクリート橋 参考資料B.道路橋での表面含浸材の適用にあたっての留意事項.2023年.3-コ B-18.5.各部材への施工より
【けい酸塩系表面含浸材】について、水分が滞留しやすい部位への適用性があるとしています。具体的な適用箇所として橋座面が例示されています。
【シラン系表面含浸材】について、水が強制的に圧入されるような環境下での使用を避けること、ひび割れ発生後には「効果を期待するのは困難な場合がある」あるいは「効果が期待できない」、「損傷の程度によっては効果が小さい」と案内があります。具体的な適用箇所として地覆・剛性防護柵、主桁が例示されています。
加圧透水性試験【土木学会規準JSCE-K 572】
【けい酸塩系表面含浸材】の水圧環境下での有効性の確認試験です。
【シラン系表面含浸材】の試験方法JSCE-K 571に規定されていない、【けい酸塩系表面含浸材】独自の試験項目です。
設備を保有している機関が限られている試験です。
当社は(一財)建材試験センターに委託。
水の浸透深さが、【けい酸塩系表面含浸材】を塗布することにより小さくなっており、水圧環境下で有効なこと(水掛かりで有効なこと)を示しています。
ひび割れ部への適用性
【けい酸塩系表面含浸材】は、ひび割れ部への適用性が高い材料です
「コンクリートの変状は、そのほとんどがひび割れから始まる。」
出典:国立研究開発法人土木研究所.コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル2022年版.2022年.I-18.2.3補修工法の種類より
北海道開発局「道路設計要領」に表面含浸材のひび割れ部に関する案内が出ています。
【けい酸塩系表面含浸材】については、土木学会「けい酸塩系表面含浸材の試験方法(案)」JSCE-K 572の試験項目の一つとして、ひび割れの閉塞性の確認試験であるひび割れ透水性試験が規定されています。
北海道開発局「道路設計要領」より
【シラン系表面含浸材】は既設構造物の塩害・凍害対策として、ひび割れ発生後には「効果を期待するのは困難な場合がある」あるいは「効果が期待できない」、「損傷の程度によっては効果が小さい」と案内があります。
ひび割れ透水性試験【土木学会規準JSCE-K 572】
【けい酸塩系表面含浸材】のひび割れ閉塞性の確認試験です。
【シラン系表面含浸材】の試験方法JSCE-K 571に規定されていない、【けい酸塩系表面含浸材】独自の試験項目です。
ひび割れ透水性試験結果の比較
土木学会「けい酸塩系表面含浸工法の設計施工指針(案)」より
【けい酸塩系表面含浸材】は、透水量が【無塗布】よりも大幅に減少しており、ひび割れの閉塞性があること、ひび割れ部に有効なことを示しています。
【シラン系表面含浸材】は、透水量が【無塗布】よりも多く、悪化しており、ひび割れ部に有効でないことを示しています。
表面含浸材の比較試験
【シラン系表面含浸材】と【けい酸塩系表面含浸材】は本来試験方法が異なります。
JSCE-K 571が【シラン系表面含浸材】、JSCE-K 572が【けい酸塩系表面含浸材】の土木学会規定の試験方法です。両者の試験方法は似ているのですが、試験体の組成や試験面などが異なるので試験結果の比較はできません。
以下の試験は、JSCE-K 572が発表される2012年より前に当社で実施した試験となります。
試験に使用した表面含浸材
反応型SG:L-OSMO反応型SG 反応型けい酸塩混合型表面含浸材
(けい酸リチウム・けい酸ナトリウム・けい酸カリウム配合)
シラン① :シラン・シロキサン系表面含浸材(他社製品)
シラン② :アルキルアルコキシシラン系表面含浸材(他社製品)
透水量試験
試験体(角柱100×100×400 mm 水セメント比(W/C)= 50 %)の型枠面を試験面とし、漏斗とメスピペットを接合した器具をシーリング材で貼り付け注水後、JSCE-K 571に準じて7日間の透水量試験を行った。
表面含浸材塗布による遮水性向上が確認された。
【シラン系表面含浸材】の方が【けい酸塩系表面含浸材】よりも約30 %高い透水抑制率が確認された。
ひび割れもない健全なコンクリートにおいては【シラン系表面含浸材】の方がより高い防水性があることが確認された。
凍結融解試験(JIS A 1148準拠)
試験体(角柱100×100×400 mm 水セメント比(W/C)= 50 %)の型枠1面を測定面とし、JIS A 1148に準拠して300サイクルの凍結融解試験を行った。
【けい酸塩系表面含浸材】塗布試験体は、質量変化も少なく、試験後のコンクリート表面も綺麗であった。
【シラン系表面含浸材】塗布試験体は、無塗布試験体よりも早期に剥離し、劣化が進行した。水圧を受ける環境での試験(試験体を浸漬する試験)であったので【シラン系表面含浸材】塗布することで劣化が進展したと思われる。
凍結融解試験(RILEM CDF法準拠)
試験体(角柱100×130×50 mm 水セメント比(W/C)= 50 %)の型枠面を試験面とした。試験面以外はエポキシ樹脂でシールし、養生終了後に1週間の事前吸水後(試験溶液3 %NaCl)、RILEM CDF法に準拠して56サイクルの凍結融解試験を行った。(1日2サイクル)
28サイクル時ではすべての試験体でスケーリング量は1.5 kg/㎡内に収まったが、56サイクル時でシラン①が1.5 kg/㎡を超えた結果となった。また、シラン②については42サイクル以降に急激にスケーリングが進行した。
【けい酸塩系表面含浸材】塗布試験体が、最もスケーリング量が少なかった。
【シラン系表面含浸材】塗布試験体は、無塗布試験体よりも早期に剥離し、劣化が進行する場合があった。JIS A 1148と同様に水圧を受ける環境での試験(試験体を浸漬する試験)であったので【シラン系表面含浸材】塗布することで劣化が進展したと思われる。
付着強さ試験-1
試験体(角柱100×100×400 mm 水セメント比(W/C)= 50 %)に表面含浸材塗布後、アクリル樹脂系塗装材を施工し、施工後約2ヶ月経過後に引張試験機を用いて付着強さ試験を行った。
【けい酸塩系表面含浸材】の無塗布・塗布で接着強さに大きな差異は見られなかった。
【シラン系表面含浸材】塗布試験体は、接着強さが1.0 N/㎟を下回る場合や、測定不能の場合があった。【シラン系表面含浸材】のコンクリート表面への撥水性付与が付着性を阻害したと思われる。
付着強さ試験-2
試験体(角柱100×100×400 mm 水セメント比(W/C)= 51.5 %)に表面含浸材塗布後エポキシ樹脂系接着剤を施工し、施工後13日経過後に引張試験機を用いて付着強さ試験を行った。
【けい酸塩系表面含浸材】の無塗布・塗布で接着強さに大きな差異は見られなかった。
【シラン系表面含浸材】塗布試験体は、接着強さが無塗布試験体の半分となる場合や、測定不能の場合があった。【シラン系表面含浸材】のコンクリート表面への撥水性付与が付着性を阻害したと思われる。
まとめ
表面含浸材は、適用箇所の水掛かりの有無、ひび割れ発生の有無、他工法との併用の有無などに応じて使い分けることで、コンクリート構造物の長寿命化にさらに貢献します。
【シラン系表面含浸材】(撥水型)は、コンクリート表面に撥水性を付与することもあり、健全なコンクリートにおける防水性は【けい酸塩系表面含浸材】(緻密化型)より高い傾向にある優れた材料ですが、付着性能を阻害するので他工法の下地改質工として適用することが難しく、また【けい酸塩系表面含浸材】と異なりコンクリート表層部の緻密化を行わないので水圧に弱く、ひび割れの充填をしないので、水掛かり・ひび割れ部への適用が難しいです。
【シラン系表面含浸材】は、環境によっては塗布により劣化(凍害など)が進展する場合があるので適用箇所に注意してください。