03.固化型けい酸塩系表面含浸材【L-OSMO固化型KK】開発経緯
水酸化カルシウム水溶液の事前塗布・事前混合の試行錯誤
【反応型】の課題
一般的な【けい酸塩系表面含浸材】である【反応型】には、コンクリート表層部が中性化していると、化学反応が発生し難く、改質効果を期待できないという課題があります
一般的な【けい酸塩系表面含浸材】である【反応型】は、主成分と水酸化カルシウムとの反応生成物(C-S-Hゲル)が、コンクリート表層部の微細な空隙や0.2 mm以下のひび割れを充填し緻密化することで劣化因子の侵入を抑制し、コンクリート構造物の耐久性を向上させる材料です。
施工後もコンクリート中に残存している未反応の薬剤には水酸化カルシウムとの再反応性があり、長期的に空隙を充填することができるので、新設コンクリート構造物の予防保全・長寿命化には有効です。
一方で【反応型】は、既設コンクリート構造物の補修工事への適用性が低いという課題がありました。
補修工事が必要な既設コンクリート構造物は、供用後年月が経過し、中性化によりコンクリート表層部の水酸化カルシウムが消失している状態です。(水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化)
このような状態では、水酸化カルシウムとの化学反応が発生し難く、【反応型】によるコンクリートの改質効果(緻密化)は期待できません。
※【けい酸塩系表面含浸材】の含浸深さは一般的に数ミリ程度
【反応型】の表層部が中性化したコンクリートでの改質機構
中性化によりコンクリート表層部の水酸化カルシウムが消失している状態では、化学反応が発生し難く、コンクリートを改質(緻密化)することができないのでご注意ください。
【反応型】の課題解決の検討
水酸化カルシウム水溶液を用いた【反応型】の課題解決は、改質効果が十分でないこと、工程増や粘度管理で手間がかかるため、他の補修工法に比べ手軽に施工できコストパフォーマンスもよいという【けい酸塩系表面含浸材】の利点を損ねてしまうので断念しました
【反応型】の既設コンクリート構造物の補修工事への適用性が低いという課題を解決するため、施工面への水酸化カルシウム水溶液を事前塗布する工法、【反応型】と水酸化カルシウム水溶液の混合液を塗布する工法を検討しましたが、課題解決には至りませんでした。
水酸化カルシウム水溶液を事前塗布する工法 … 断念
表層部が中性化したコンクリート構造物に水酸化カルシウム水溶液を塗布し、表層部の水酸化カルシウムを補充した後、【反応型】を塗布する工法を検討しましたが、透水量試験の結果に差異は見られませんでした。
十分な成果が得られなかった理由は、水酸化カルシウムは飽和水溶液であっても溶解度が低いからであると考えています。
※水酸化カルシウム飽和水溶液濃度:0.17 %(塩化カルシウムの1/200程度)
水酸化カルシウム水溶液と【反応型】の混合液を塗布する工法 … 断念
水酸化カルシウム水溶液と、【反応型】の混合液を塗布する工法も検討しましたが、こちらも十分な成果は得られませんでした。
水酸化カルシウム水溶液の混合量を増やせば水酸化カルシウム水溶液の事前塗布に比べると多少の改質効果は見られましたが、粘度管理が極めて困難でした。粘度調整のため水酸化カルシウム水溶液の混合量を減らすと改質効果がほとんど無くなってしまいました。
また塗布時の粘度の影響で含浸の程度が変わるためか、透水量試験結果に非常にばらつきがありました。
【シラン系表面含浸材】と【けい酸塩系表面含浸材】の混合 … 検討対象から除外
コンクリート表面から含浸・吸収される表面含浸材の量には限りがあります。
たとえば【けい酸塩系表面含浸材】を3回塗りしても2回塗りと比べて改質効果の差異は、ほとんどありません。3回目は、ほとんど吸収されません。1回・2回塗りで1度に塗布する量を増やす、乾燥固形分率を増やし濃い薬剤にするなどしても、含浸する前に垂れ落ちるだけです。
【けい酸塩系表面含浸材】と他の表面含浸材を混合すると、コンクリート表層部に供給される【けい酸塩系表面含浸材】の成分が少なくなってしまい、コンクリート表層部を緻密化、0.2 mm以下のひび割れを閉塞するという【けい酸塩系表面含浸材】の利点が期待できないと想定されたので、検討対象から除外しました。【シラン系表面含浸材】としても厚い吸水防止層を形成できないと想定されます。
【固化型】開発による課題解決
反応型けい酸塩混合型表面含浸材【L-OSMO反応型SG】の主成分の一つであるけい酸リチウムに着目しました
当社の最初の製品である反応型けい酸塩混合型表面含浸材【L-OSMO反応型SG】(けい酸リチウム、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム配合・旧OSMO)は、表層部が中性化したコンクリートにも改質効果がありました。(中性化を促進させた試験体での透水量試験で透水抑制率33 %)
我々は【L-OSMO反応型SG】の主成分の一つであるけい酸リチウムに着目しました。
けい酸リチウムには「一部は含浸初期に水酸化カルシウムと反応しC-S-Hゲルを生成し、その後未反応のままコンクリート中に残存したものが乾燥により固化し、難溶性を示す」という特徴があります。
つまりけい酸リチウムには、コンクリート表層部が中性化している状態でも、乾燥することにより難溶性固化物を生成しコンクリート表層部の緻密化が可能という特徴があると言えます。
固化型けい酸リチウム系表面含浸材【L-OSMO固化型KK】の開発
けい酸リチウムの特徴を活用して、【L-OSMO反応型SG】の成分比率を大きく変更することで、他の補修工法に比べ手軽に施工できコストパフォーマンスもよいという【けい酸塩系表面含浸材】の利点を損ねることなく、既設コンクリート構造物の長寿命化に効果のある固化型けい酸塩系表面含浸材【L-OSMO固化型KK】を開発し課題を解決しました。
中性化を促進させた試験体での透水量試験で透水抑制率71 %と十分な効果を確認しました。
【固化型】の表層部が中性化したコンクリートでの改質機構
中性化によりコンクリートの表層部の水酸化カルシウムが消失している状況でも、主成分の乾燥により生成される難溶性固化物がコンクリート表層部の緻密化します。